
新規事業開発2.0:解釈学的循環による新たな総合の試み【第3回】
2012年4月、元Google社員、Kevin Systrom、Mike Kriegerが創業したInstagramをFacebookが買収すると発表したとき、世界中に衝撃が走りました。創業からわずか2年、社員も十数人程度、しかも広告も一切出しておらず収益ゼロの企業に対して、Facebookは約10億ドル(当時のレートで約800億円)という巨額を提示したのです。無料の写真共有アプリに、そこまでの価値を見出すのか――多くの人がそう驚き、議論を呼びました。
それよりさかのぼること6年、2006年にはPayPal社員だったChad Hurley、Steve Chen、Jawed Karim率いるYouTubeをGoogleが買収。当時の金額は約16億5千万ドル(同年の為替で約1,950億円)でした。こちらもまた、創業から1年半ほどの若い企業で、広告によるわずかな収入はあったものの、利益は出ておらず、それどころか著作権の管理体制不備を指摘され、Viacom(MTVやParamountの親会社)は大きな懸念を表明、後にYouTubeとGoogleを相手に10億ドル規模の著作権侵害訴訟を起こします。Googleはそんな「火中の栗を拾う」ほどYouTubeが欲しかったという事です。
収益を生んでいない企業に、なぜこれほどの金額を支払うのか。
当時は多くの批判や懐疑の声が上がりましたが、結果的にこの二つの買収は、インターネット史における最も成功した投資の一つとして語り継がれることになります。買収額の大きさもさることながら、「収益よりも未来の影響力を買う」という発想に、多くの人が度肝を抜かれたのです。
ユニコーン企業(未上場ながら企業価値が10億ドル=約1,500億円を超える企業)に代表されるスタートアップの評価は、伝統的な財務指標では説明がつきにくく、経営者や投資家の間で議論の的となってきました。
ビジネススクールが教える企業価値評価の基本は「利益に基づく評価」です。例えば、PER(株価収益率)は「株価÷1株あたり利益」で計算され、利益の何倍の価値があるかを示します。しかし、多くのスタートアップは創業から数年間、意図的に利益を出さず成長に投資し続けます。では、そのような企業の価値をどう考えれば良いのでしょうか?
本稿では、赤字企業に高額な評価がつく理論的根拠と実務的インプリケーション(含意)を、できるだけわかりやすく解説してみたいと思います。
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